インタビュー: 西久松 友花

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Feb 3,2024

西久松友花は1992年、京都府亀岡市出身の作家。

西久松友花の制作活動やバックグラウンドについてインタビューを行った。

ご自身のバックグランドについて少し教えてください。

私は京都の亀岡という街で育ちました。市内から離れているので田舎というイメージがありますが、生活するには何不自由なく住みやすい街です。濃霧が有名で、小学生の頃の登校時の朝、前が見えない程の真っ白な霧に包まれていたことがあり怖い思いをした記憶があります。亀岡では毎年「霧の芸術祭」が開催されており、地元出身の作家として参加させて頂いています。

画家である両親の元に生まれ、幼い頃から何度も両親のスケッチについて行った記憶があります。父親は自然や大地の姿を主題として描いているので、様々な風景を見に行きました。何時間も対象と向き合う父の傍らで、私はいつも持ち歩いていた小さなスケッチブックに懸命に描いていました。

京都の寺社仏閣にもよく訪れました。石仏、狛犬、仏像などを多数描いた記憶があります。

母親は蓮の群生や昆虫、野花や雑草のスケッチを元に「輪廻転生」をテーマに画面の中にそれらを構成し描いています。スケッチをするための昆虫や植物、面白い形の野菜など、あらゆるモチーフが家の中に在りました。

また、母が絵画教室を主宰しているため物づくりをする環境はいつも身近にありました。今思えば両親から知らず知らずのうちに受けた思想や成育環境が現在の自身の作品制作に影響し、自分を形作っているのだと感じます。こうして自分の中に深く芸術に根差す心が生まれたのだと思います。

高校は美術系の高校に進学して日本画を専攻し3年間絵を描きました。この時、陶芸にも興味があったので、大学は京都市立芸術大学の工芸科に入学しました。初めて触る10kgの土の塊は幼少期に触っていた〝粘土〟とはまるで違う、まったく別物の感覚がありました。どちらかというと工作よりも絵を描く方が得意だった私が、土を触った時に不思議と手の中にすっぽりと収まる感覚を覚え、作りたい作品のビジョンがなんとなく頭に浮かんだのを覚えています。

化生 2022 H53 x W27.5 x D5.5 cm Porcelain clay, glaze, gold, platinum, brass, braided cord Photo by Takeru Koroda

成長期の過程での興味の矛先はどこにありましたか?

小学生の頃、当時放送されていた少女漫画を原作にしたアニメに没頭していました。一見普通の高校生である主人公が実はジャンヌダルクの生まれ変わりで、天使の力を借りて怪盗に変身し美しいものや美術品に憑依した悪魔を封印していくというストーリーです。天使や神、悪魔などが登場し内容も大変面白かったのですが、変身するための道具やキーアイテムとなるロザリオ等に興味と憧れを抱いていました。私の作品には、どこかこの変身用アイテムを連想させる造形が隠れているのかもしれません。またストーリーの中には転生するという概念が自然と織り込まれています。美しい物の中に悪魔が潜む「まやかしの美しさ」という繰り返し使われるキーワードも印象に残っています。〝自分ではない何か〟になってみたいという変身願望が幼い頃からあります。その為か高校生の頃からファッションやアクセサリーに関心を寄せました。色を使って表現する事や色鮮やかなものが好きだったのでアジア雑貨を集めるのも好きでした。

アーティストとしてのキャリアはどのようにして始まりましたか?

大学と大学院で陶芸を学んでからは土という素材の魅力に取り憑かれ、制作を続けています。学部4回生で就職か大学院進学かを決断する時に、一度お世話になったギャラリーの推薦で京都府の選抜展に出品する事が決まり、制作を続けることにしました。大学院に進学するのであれば、作家になる以外の道は無いと覚悟していました。大学院の2年間で大学を出てからの基盤を少しでも作りたかったので積極的に展覧会に参加しました。修了してからすぐには作業場の確保や設備の準備が出来無いので、大学で非常勤をさせてもらいながらなんとか制作、発表を続けました。少しでも作ることから離れてしまう事が恐ろしいという気持ちと、作る事で精神を保っているという感覚がありました。そのうち少しずつ展覧会の出品依頼をいただくようになり、お客さん、アート関係者の方や作家さんとの繋がりが広がっていきました。

炎華 (一部) 2023 Photo by Takeru Koroda

あなたにとってのインスピレーションは何ですか?

陶芸を始めた当初は、建物や風景、街の形が気になってドローイングを元にして作品を制作していましたが、卒業制作をきっかけに、自身のより内面的な部分に近い元々興味のあった身を着飾るものであるアクセサリーや洋服、装飾品を作品の装飾要素として取り入れたりもします。装飾的な観点から伝世品や歴史⽂化的な背景を持つ象徴物の形態や色彩に関⼼を持っています。

これまで作品のモチーフとして扱ってきたものに甲冑などの武具、装身具、祭具、青銅器等があります。他にも寺社仏閣で見られる屋根や建具の装飾、仏具などがあります。それらは用途や機能性を備えながらも造形的な面白さ、美しさがあると感じます。

歴史背景やものが持つ意味に加え、私はその造形、装飾性、色彩などの表層的な部分に特に強く惹かれています。それらを、土でかたちづくり、意匠をこらし、装飾を象り、再構築することで作品が生まれます。

制作を通して時代や暮らしが変化しても変わることのない普遍的な価値観を再考するきっかけになるのではないかと考えます。また、自分の中にどんな文化が流れているかを作品制作を通して知ることが出来るのではないかとも考えています。

炎華 2023 H730 x W280 x D40mm Porcelain clay, glaze, gold, platinum, brass, braid, Swarovski
Photo by Takeru Koroda

好きな作家は誰ですか?

陶芸家だとエイドリアン・サックスが好きです。造形的な面白さと色彩感覚、土に対する異素材の組み合わせ方が特異で粋だと感じます。元々絵画も大好きなので画家だとヒエロニムス・ボスです。ボスの絵画からはとても影響を受けています。日本の作家だと日本画家の橋本龍美の描く世界が好きです。森羅万象に神が宿るという日本古来の宗教観の元、故郷の自然と妖怪をユーモラスに描く画家でその独特な世界観に引き込まれます。

作品を作る中で一番エキサイティング、魅了される場面はどんな時ですか?

土という素材は、可塑性を持ち、1つの素材でありながら、無数の表情を持つことから、日々の制作のなかで絶えず発見し、長い時間をかけて理解していく事が必要不可欠です。また、窯で焼成し仕上がりを委ねる事で、時に想像の範疇を超える結果となる場合があります。また、陶磁器は土の歪み、収縮、釉薬の化学変化など窯の焼成による様々な変化を伴います。焼成する事によって介入する事の不可能な人智を越えた領域に達し、窯から出てきた作品にある種の神秘性を感じます。

自身の作品は多種の釉薬の表現が特徴的であり、釉薬の扱いに関しては面や形できっちりと塗り分けることが多く、濃度、塗る回数、それぞれの釉薬の性質を知りコントロールしながら塗り分けていく必要があります。自身の考える釉薬の特性の中に重ねる事で下の色が上の色に影響し、調和が生まれ、絵具や他の素材では表現できないような表情を生み出す事があると思っています。

これは昔学んでいた日本画の岩絵具の表情や扱いと類似していると感じています。あえてはみ出させたり上から塗り重ねたりする事で複雑でコントロール出来ない化学変化に結果を委ねて窯の中で起こる偶然性に任せる事と、自身の思うように素材をコントロールする事でバランスの取れた作品が生み出せた時に、何にも変え難い喜びを感じます。

Photo by kaizaki maria

プロフィール

1992年、京都府亀岡市出身。京都市立芸術大学大学院 美術研究科工芸専攻陶磁器修了後、京都市を拠点位活動している。地元亀岡で開催される芸術祭等にも参加し精力的に活動を続ける。歴史のあるもの、現代まで継承された伝世品や土着の文化、宗教的象徴物などを、 土という素材に置き換えて再構築、再解釈している。

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